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107.これもトレモロ

2007.10.6


 #83#84で弦楽器のトレモロを吹奏楽に移し変える場合の悩みなどを書きました。実はそれだけでなく、もう少し悩んでしまうことがあったのです。それは、次の譜面の二小節目にあるような、刻みの最初の音から二番目の音へ跳躍している場合です。

ベートーヴェンの交響曲の中では頻繁に出てくる音形です。手元にある他の作曲家の交響曲をざっと見てみましたがあまり使われている手法ではありませんね。モーツァルトやメンデルスゾーンで少し見られるところから古典の手法なのでしょう。ベートーヴェン自身の作品でも「第九」では出現回数はかなり減っています。数えたわけではありません。ざっと見た感じですが。もちろん吹奏楽曲でもほとんど見ることがない音形といえるでしょう。

 さて、このような音形を吹奏楽に置き換える場合、前に書いたような方法では対処しにくいこともありますし、無理やりやるといたずらに演奏を困難にしてしまうでしょう。大抵1オクターブ程度の跳躍をしています。管楽器では早いパッセージでの跳躍は苦手なのです。
 それではどうしたらよいか、以前と同じように作曲の意図がどこにあるかを考えて、その意図をできるだけ壊さない方法で考えてみましょう。

 上の譜面では、最初の十六分音符は前からのフレーズのおしまいの音になっています。そのあとの刻みは伴奏になっています。音楽の変わり目で、同じパートで旋律から伴奏へ移り変わる際のテクニックといえなくもありません。
 この場合の対処方法は、パートを分けてしまうことでしょう。旋律をクラリネットでやってきたら、伴奏に入ってからはフルートで演奏するとか。フルートならダブルタンギングもできますので刻みも演奏しやすいです。
 ただ、ディメリットもあるわけでして、弦楽器群のようなボリューム感が欲しい場合に不適切なこともありますし、クラリネット群が次のフレーズが出てくるまでしばらく休符が続いてしまうことになります。私の編曲の場合は弦楽器群をクラリネット群に移し変えることが多いので、クラリネットの音がなくなるというのは多少の違和感をもたらすことになります。 こういった点を、いろいろと考えながら編曲しています。これといって決定打が無いの悩んでしまうのですね。

 次の場合はどうでしょう。

ヴィオラパートです。直前は休符ですので前からのフレーズのお終いということはありません。何を意図しているのでしょうか。
 1.拍の頭の強調が考えられます。違う音で打点は、同じ音の打点の連続より強く聴こえます。ですから、クラリネットで跳躍なしで刻み音を演奏し、コルネットなど別の楽器で最初の音を足すことで対処できるでしょう。パートが足りなければ、アクセントを付けることで効果を得ることでも良いでしょう。
 2.装飾音符と同じ意味合い。この場合は、装飾音符として扱ってしまいましょう。跳躍が離れた音で難しければ、和音の中の別の近い音に変えてしまってもいいかもしれません。(この譜例はヴィオラにしかついていないので装飾音符ということは無いですね)
 3.ベースパートへの付加。低音側の音を演奏することでベース的な機能を持たせます。この場合もトロンボーンなどを足して対処することができます。
 こちらのパターンの方が対処法は考えやすいですね。

 冒頭にも書きましたが、ベートーヴェンの交響曲の特徴的な音形のように思えます。つまり、これを上手く対処できないとベートーヴェンらしさが損なわれてしまうことがあるのですね。注意しなければいけません。と言いつつ、「もう8番まで来ちゃってるしちょっと気付くのが遅かったかなぁ。」と、若干の反省をしています。 

【図の引用】
ベートーヴェン / 交響曲第2番二長調は 音楽之友社 OGT2、(21,37ページ)
より 引用いたしました。

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