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106.A管のみならず

2007.9.29


 前回はA管クラリネットの記譜法に関する「おやおや?」と思ったことを書きましたが、今回は他の「おやおや?」と思ったことを書きましょう。
 実はすでに、雲ヶ音市民吹奏楽団第3回定期演奏会のプログラムノートに書いているのですが、曲全体の調性記号が無くなってしまうことがあるのですね。

 「英雄」第2楽章のこの部分です。Maggioreから、あたかも無調であるかのようになっています。初めて見たときはなにを意味するのか分からず、あんなことを書いてしまったわけです。
 ところがこの現象は他の曲でも現れていたのです。「運命」の第3楽章。トリオでハ短調からハ長調に転調するところです。同じようにすべてのパートから調性記号が無くなっています。

 ということで、「トリオでは調性記号が無くなるという約束なのかな?」と思ったわけです。しかし、そんな話は聞いたことがありません。

 では、もう少し他の曲を見てみると、まだありました。第7番の第2楽章です。あれ? これは前回書いた部分ではありませんか。
 この曲ではイ短調からイ長調へ転調しますので現象としては逆で、冒頭が調性記号が無い状態になっています。

 そうなると、曲全体の調性記号が無くなるのではなく、クラリネットの記譜の話と考えた方がすっきりしてくるのではないでしょうか。「英雄」も「運命」もクラリネットだけが調性記号のルールから外れているのですから。

 B♭管クラリネットは正しく移調されて記譜されていると思い込んでいたので、前回はA管クラリネットの使われている曲ばかりを調べてみたのですが、B♭管クラリネットはどのように記譜されているのでしょうか。ちなみに上の「英雄」と「運命」はB♭管が使われている部分です。
 
 次に現れたのは第8番の第4楽章でした。

ヘ長調からロ短調への転調ですが、クラリネットは転調せず♯一つのままです。
 次は「第九」の第3楽章。前回「変則的」と書いたのは、変ロ長調からト長調に転調するときには調性記号は変わらないのに、ト長調から変ホ長調へ、変ホ長調から変ロ長調へ転調するときには、しっかり♭の数が正しく変わっているのです。
 「第九」終楽章にいたっては、B♭管、A管の持ち替えがある上、転調も頻繁にあるので、書ききれませんが、ここまで現れたような法則によって書かれています。

 前回気付いた法則のほかに、
シャープ系の調に転調する際は調性記号は変えず、フラット系の調に転調する際は正しく転調する。
 というものが加わりそうなのですが、もはや正しい法則というのは私には整理がつかなくなってしまいました。
 そのうちにクラリネットの先生に聞いてみたいと思います。

 さて、もう少し。
 上の第8番の第4楽章の転調は「ヘ長調からロ短調へ」と書きましたが、音楽之友社版スコア(OGT8)の坂本良隆さんの解説によると、

 主要主題が嬰へ短調で烈しく戦うような勢いで現われ(379-382)

とあります。嬰へ短調はシャープ三つですから、間違ってるんじゃないかなぁ、と思いましたが、譜面をよく見るとこの部分全てのGの音にシャープがついています。確かに嬰へ短調になるのですが、、、。この部分わずか12小節で元のヘ長調に戻るのですよ。
 譜面の調性はロ短調で、曲は嬰へ短調だなんて、、、

 まだまた、不思議なことは出てきますねぇ。

【図の引用】
ベートーヴェン / 交響曲第3番変ホ長調は BÄRENREITER版 TP903、(48ページ)
ベートーヴェン / 交響曲第8番ヘ長調は BÄRENREITER版 TP908、(71ページ)
より 引用いたしました。
【参考文献】
ベートーヴェン / 交響曲第八番ヘ長調 / 音楽之友社 OGT 8

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