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83.刻む

2007.4.21


 これまでにいくつか弦楽器パートを管楽器パートに移し変えるときの悩みどころを書いてきましたが、今回はそのもっとも難関とも言えるところについて考えてみます。なにしろ、弦楽器というのは表現力のもととなっている様々な奏法があるのです。

 私は、著作権が生きている現代音楽などは編曲をしませんが、かなり特殊な奏法の指示をみると管楽器ではどうしようかと考え込んでしまいます。最終的には楽器での再現は不可能と諦めちゃうのですけれど。逆に、そのような特殊な奏法は聴衆にとっても耳馴染みのないものですから、端折ってしまっても影響は少ないかな、と作曲家に対して失礼な考えも浮かんだりします。

 では、耳馴染みのある重要な奏法で管楽器に移し変えるのに悩む奏法はというと、トレモロです。
 トレモロは、「単一の高さの音を連続して小刻みに演奏する技法、ならびに複数の高さの音を交互に小刻みに演奏する技法である。後者はバッテリーとも呼ばれる。」(Wikipedia)というものです。ここでは特に前者について考えてみます。

 同じ高さの音を小刻みに連続して出すことなのですが、弦楽器の場合は弓を持つ手を痙攣させるように細かく動かすことによって実現しています。管楽器の場合、発音はタンギング(舌で吐く息を遮っている状態から、音を出す瞬間に舌を離す。トゥー、と発音した感じ)によりますから、これを連続させなければなりません。トゥトゥトゥトゥトゥ・・・と。
 で、弦楽器と管楽器でどちらが素早く細かく刻めるかというと、弦楽器の方が早いことが分かります。管楽器の方が最高速度が遅いのです。じゃあ、もっと早いタンギングは出来ないのかというと、ダブルタンギングというのがあります。トゥクトゥクトゥクトゥク・・・と発音してみます。トゥとで発音されますので弦楽器に匹敵する速度が可能です。しかし、このダブルタンギングは、フルートと金管楽器に有効であって、リード楽器(クラリネット、サックス、オーボエ、ファゴット)では出来ないことになっているのです。(クラリネットの先輩で出来る人がいたけど、変態呼ばわりされていたなぁ。プロの奏者の場合はどうなんでしょう)
 弦楽器パートは主にクラリネットに移し変えるように考えているわけですから、これは困ったことになります。
 いくつか、トレモロを管楽器に移しかえるアイディアを考えてみましょう。

1. ダブルタンギングの出来る楽器でやる。
 フルートや金管楽器でやってみるのですが、音域が問題になってくることがあります。高音域ではピッコロ・フルートでしか対応できません。ハーモニーのようにいくつもの音が重なっていた場合、パートが足りなくなります。低音域の場合は、チューバのダブルタンギングの速度が上がらないことがあります。

2. 鍵盤打楽器でやる。
 グロッケン、シロフォン、マリンバ、ヴィブラフォンなど撥で叩く楽器はトレモロは得意です。しかし、曲によっては音色に違和感が出るでしょう。ベートーヴェンの交響曲でグロッケンの音がしたら、何か変ですよね。

3. (ハーモニーの場合)バッテリーを組み合わせてみる。
 例えば、ドの音とミの音とが同時にトレモロであった場合、ドミドミドミドミ・・・と演奏するパートと、ミドミドミドミド・・・と演奏するパートを重ねてみます。結構有効だと思うのですが、音によっては指使いが難しくなってしまうことになります。

4. トリルで代用。
 ドドドドドドドド・・・とするべきところをドレドレドレドレ・・・・というように。違う音が入っちゃうわけですから、違和感が生じますよね。

5. リズムを分ける。
 譜面上はトレモロのままで、演奏時にドンドドドンドド(ンは休符)という奏者とドドンドドドンドという奏者に分けるのです。合奏のテクニックによるわけで、譜面書きとしてはちょっと無責任のような気がします。

6. 諦める。
 トレモロは諦め、ただの延ばした音にする。どうしょうもなくなったらこうなってしまいます。最近は開き直ってきたので、割と平気でやるようになってしまいました。

 これらの方法を、組み合わせつつトレモロ対策に四苦八苦しているのです。

 それにしても、トレモロだのタンギングだの音楽用語を一般の人にも分かるように簡潔に書くのは難しいものです。これでちゃんと伝わるか分かりませんね。そもそも、一般の方がこのサイトを見るかというのも疑問なのですが、、、

【参考文献】
ウィキペディア フリー百科事典
http://ja.wikipedia.org/wiki/トレモロ

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