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248.爆演系への入り口

2010.6.12


 「爆演系」というのは学術的な言葉ではないのですが、クラシック音楽の世界では一般的に認知されている言葉のようです。私は、意識したことは無かったのですが。

 何度かここで取りあけている鈴木淳史さんの著書には「爆演系」をはじめトンデモ演奏を紹介した本が多くあります。最初に買った本が何であったか忘れましたが、書店で手にしたときには「なにやらおもしろいことが書いてある本だぞ」と思わず買ってしまいました。が、最初のうちはCDの評論を面白おかしくしている物だと思っていたのですが、最近になってようやく本当に妙チクリンな演奏を紹介しているのだと思う様になってきました。
 何しろ、私の所有しているCDが紹介されていることが全くといって良いほど無い(これは有る意味幸せである)ので、どの程度の演奏を評論しているか分からなかったのです。「おもしろい文章を書く人だなぁ。」とか「沢山CDを聴いているんだなぁ。(私より若いのに)」とか、そんな風に思いながら読んでおりました。

 で、この「背徳のクラシックガイド」であります。帯の謳い文句には、
怪しげでブチ切れた 異様な雰囲気の クラシック音楽が放つ 奇想天外なオーラを聴け!
 とあります。読んでみますとさすがにおもしろいことが沢山書いてあります。まぁ、だからといって即聴きたいとは思わなかったのです。
 この本に紹介されていて私が持っていたのは、本書P22で紹介されている、フルトヴェングラーの「第九」(1951、バイロイト祝祭劇場)の一枚のみ。
 
 紹介されているレーベルとは違いますが、録音は同じです。歴史的名盤と言われています。鈴木さんは「名盤という先入観を取り払って聴けば、なんとヘンタイな演奏なのかと驚く、」という意味で書かれております。私自身も購入したときには、古い録音の妙なアゴーギクやディナーミクが付いた演奏なのではないかと思って買ったのですが、実際に聴いてみると、古い録音は仕方ないとして以外におかしくないと思って聴いた物です。まぁ、フィナーレの畳み込むような終わり方はさすがに苦笑してしまいましたが。
 書かれているほどヘンタイな演奏に感じないのは、私の耳が鈍いのか、寛容なのでしょうかね。

 まぁ、一枚だけ聴いただけでは何とも言えませんので、おもしろそうだと思ったCDを3枚ほど注文してみました。

 さて、届いたCDは、
 
 ムラヴィンスキーの1965年のライブ。本書ではP71でグリンカの歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲が「底抜けに速えぇ」と紹介されています。
 聴いてみますと確かに速い。しかし、底抜けにというほどかなぁ、などという呑気な感想です。でもって、前回の演奏時間比較です。
 私の所有しているCDの中でも最速ですが、次点のサロネンの演奏と7秒しか違いません。でもってサロネンの演奏は速いという気はしないのです。「ルスランってこの位のテンポだよね。」といえるほど。5分程度の曲ですから、7秒の違いは大きいのでしょうね。
 このCDは2枚組みでして、その他にチャイコフスキーの交響曲第5番やショスタコーヴィチの交響曲第5番が収録されています。チャイコフスキーの方が、「やってくれるねぇ」という演奏なのですが、まぁ、それはロシアオケとしては当たり前のことなので本のネタにはならなかったのでしょうね。

 次のCD、
 
 P39で紹介されている、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番、ジョージ・セル指揮ニューヨークフィルハーモニック、ピアノ独奏ウラジミール・ホロヴィッツで1953年のライブ録音です。どのように紹介されているかというと、
 格闘する二人の怪物が開く異界の扉
だそうで、ソリストと指揮者の対決がピリピリしており、主導権の取り合い、お互いにスキあらばテンポを上げてブッチぎろうという演奏だそうです。
 聴いてみると、色気や華やかさは無いきっちりとした演奏です。テンポは全体的に速目。しかし、先入観無しにいきなり聴けば「元気のいい演奏ですね」位で済みそうだとは思うのですが。「怪獣映画の世界」などには聴こえない私の耳はやっぱり鈍いのかしら。

 次のCDは本書では紹介されてはおりません。紹介されているのはP34、「展覧会の絵」の演奏で指揮者がニコライ・ゴロワノフという人。「展覧会の絵」を買う気がしなかったので、このゴロワノフの別の曲を買ってみました。どうやら一部のマニアの間では人気があるそうです。
 
 グリーグのペールギュント組曲第1、2番、グラズノフの交響曲第5~7番、ラフマニノフの交響曲第2番という3枚組みです。録音は1945年から1953年の物のようです。
 「うーん、これかぁ」という爆演系ですねぇ。私が一番感じたのは、グラズノフの5番終楽章(私が現在編曲途中の曲です)。テンポの揺らし方が尋常ではありません。速いところの突進も凄い。ラフマニノフの終楽章もテンポが速すぎてオーケストラが訳が分からなくなっているところがありますね。決して下手なオーケストラということではないのですけれど。
 素晴らしいCDでした。まぁ、いつも聴きたいとは思いませんが。

 今回購入したのはこの3タイトルでしたが、このほかに紹介されたCDでどうしても聴きたい曲がありました。P16で紹介されている、アーベントロート指揮のブラームスの交響曲第1番です。「とにかく笑える」そうなのです。是非聴きたい。
 しかし、HMVに注文したものの廃盤でキャンセル、タワーレコードも入荷せず、アマゾンも入荷待ち、ということで入手できません。
 そうなると余計に聴きたくなる、、、。


 #213で書いたシンクロシニティ。昨年は「オペラ」だったわけですが、今年は「爆演系」になるかも。こうやってCD集めに走ってしまったし、5月15日に聴いたコンサートも爆演系でしたし。
 ということは、駒ヶ根市吹の演奏会も「爆演」になる!? そうならないようにしたいのですが、ちょっと心配なことも、、、。10月にはどうなるか、皆さんお楽しみに。

【参考文献】
鈴木淳史 / 背徳のクラシックガイド / 洋泉社 新書y

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