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27.トロンボーン再考

2006.3.11


 コンサート前に立ち寄った書店で、ふと目に止まり買ってしまいました本があります。

名曲の「常識」「非常識」 オーケストラの中の管楽器考現学
 佐伯茂樹 著 音楽之友社 刊

 いつだったかというと、『聴いた、見た、読んだ』によれば昨年の12月18日ですね。
 私はこの「常識」とか「非常識」という言葉に弱く、書店などでつい手にとってしまうのです。さらに管楽器の本でもありますし、パラパラと中を見てみますとベートーヴェンの作品ことも書いてありましたので、「これは私が買うためにここにあったのだ」と思い込み買ってしまいました。
 そのコンサートの開演前に読み始めたのですが、面白い面白い。非常にためになりました。
 著者が業界で常識とされている、数々の「楽譜にはこう書いてあるけれど、実際はこう演奏するんだよ。」という慣例に疑問を持ち、調べた考察が多く書かれています。研究書、教科書には書かれていない(書けない?)内容ばかりで楽しめます。

 私が#3で悩んだトロンボーンについてもヒントがありました。詳しくは本書を読んでいただくとして、大雑把に言ってしまうと、、、
 トロンボーンという楽器は教会など宗教の場で使われることが多く、聴衆はトロンボーンの音を聴くと神を連想した、らしいのですね。また、トロンボーン・エクワーレ(無伴奏の三、四重奏曲)は葬儀を連想させた、とも書かれています。いずれにしろ神様が関わっているわけです。

 そこでベートーヴェンの交響曲第5番「運命」です。ベートーヴェンは第4楽章で交響曲史上初めてトロンボーンを登場させます。これはどういう意味になるかちょっと考えて見ますと、、、
 第1楽章が「運命」のテーマによって短調で始まり、第2楽章で長調に転じ、第3楽章がじわじわと盛り上がり、第4楽章でトロンボーンの響きが聴こえる、つまり神が現れる、、、。
 これは、凄いことではありませんか!!。音楽を聴いていて「神」が現れるのですよ。まさに「苦悩から歓喜へ」です。この考えに至ったときには鳥肌が立ってしまいました。

 さて、そんな考えを持って聴きに行った昨年暮れの岩城宏之さん指揮の「全交響曲連続演奏会2005」。そのパンフレット(2000円もした!)の解説に書いてあったのが、
「…「運命」という言葉に象徴される文学的な解釈に全曲を押し込め、「苦悩から歓喜へ」というモットーのみによって全曲を理解しようとするのはあまりにも乱暴ではなかろうか。…」

 うーん、考えが浅かったか。

 とはいえ、トロンボーンの登場には意味があることは確かなのです。まあ、編曲するときはそういうことを忘れないようにしたいと思います。
譜面には表れないのですけれど。


【参考文献】
・名曲の「常識」「非常識」 オーケストラの中の管楽器考現学
 佐伯茂樹 著 音楽之友社 刊

・交響曲 第5番 ハ短調「運命」作品67 解説 岡本 稔
 「全交響曲連続演奏会2005」パンフレットより 

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