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301.交響曲第11番発見される

2012.4.1


 このほど、ベートーヴェン作曲の交響曲第11番が発見された。発見されたのは、ベートーヴェンが1826年9月末から2ヶ月ほど滞在した、グナイクセンドルフにある弟ヨーハンの邸宅の屋根裏部屋であった。部屋の中央にテーブルのように置かれていたため、長年誰も気付かなかったようだ。テーブルのように、と伝えられたのは、縦80cm横60cmの五線紙が40cmもの高さとなってて布が掛けれられていたためである。誰も譜面だとは気づかなかったという。ベートーヴェンの死後185年にしての大発見である。

 ベートーヴェンの交響曲は第10番まであることは広く知られているが、この第11番は第10番とは全く別の着想から始まっており、先に述べた80cm×60cmという巨大な五線紙2000枚という超超大作であり、解析作業が進められている。演奏用のパート譜は作成されていないため、パート譜の作成も含め実際の初演がいつになるかは未定という。

 ここまで分かったところでの曲の構成を見てみたいと思う。
 曲は全部で12の楽章から出来ており、編成は、ピッコロ2、フルート8、オーボエ3、コーラングレ3、ファゴット3、コントラファゴット3、Esクラリネット2、Bbクラリネット6(Aクラリネット6持ち替え)、Fバセットホルン2、Bbバセットホルン2、サーペント2、バスサーペント2、ホルン8、コルネット8、トランペット8、バストランペット4、アルトトロンボーン2、テナートロンボーン6、チンバッソ2、バステューバ2、ティンパニ4組、打楽器群(大太鼓、小太鼓、シンバル、ドラ、サイレン、タイプライター、ワインボトル、木槌)、ハープ6、ピアノ2、プリペアドピアノ1、弦楽器群、独唱(ソプラノ4、アルト4、テノール4、バリトン4、バス4)、混声四部合唱となっている。

【第1楽章】一見ソナタ形式であるようにも思えるが、主題の変奏を経て自由に書かれており、音楽における形式の崩壊を表現しているように思われる。ベートーヴェンはすでに交響曲第9番第4楽章で自由な形式を実現しているため、これは必然ともいえる。

【第2楽章】この楽章は、大地を礼讃する原始宗教における祭典を描こうとしたものと思われる。リズムが荒々しくエネルギッシュに奏され、変拍子の多用が際立っている。巨大な編成をフルにかき鳴らす楽章である。

【第3楽章】民族性を主題においているようであり、東欧の国々の民謡が新古典的な手法で現れる。

【第4楽章】軍歌、賛美歌などがそのまま引用され、日常生活の中の音、ノイズを模倣することにより、具体的な情景を音で描写することに成功している。

【第5楽章】第4楽章までに於いては、形式、リズムからの離脱に成功しているが、この楽章においては調性に見切りをつけ、無調という新たな領域へと踏み込む。4度和声と半音階を駆使し、調性から開放されてゆく。

【第6楽章】後のシュプレッヒシュティンメをと呼ばれる、歌と語りの中間を狙った独特のポルタメント唱法を用いた、16声の独唱と混声合唱による幻想的な歌曲となっている。

【第7楽章】12音技法が登場する。一切の反復を取り除いて切り詰められたテクスチュアは、バロック時代の対位法を思わせる精密な構造に支配されている。

【第8楽章】イタリア未来派を思わせる楽章。打楽器やサイレンが鳴り響き、さらに東洋音楽に触発されながら、ピアノの内部奏法が試みられている。

【第9楽章】グランドピアノの弦にボルトや皮、ゴムなどを挟んで個々の音を変質させたプリペアドピアノのための楽章。音色の上では画期的であるが、リズムや音の構成は厳密な規則に則っている。

【第10楽章】セリー書法への発展。ギリシャ神話を題材とし、新古典主義風の構成の中に、ジャズの要素がふんだんに盛り込まれている。

【第11楽章】トーン・クラスターの技法が現れている。

【第12楽章】「引用」の手法が用いられ、交響曲第3番第2楽章をベースに、過去の17の作品から断片や言葉が散りばめられている。


 以上が、この交響曲の全容の概略であるが、まるで私たちが知っているベートーヴェンの死後の音楽の歴史を見るようである。ベートーヴェンから見れば、時代を先取りしている(さすがに電子楽器は登場しないが)ものであろう。

 初演が、待ち望まれるところである。

【参考文献】
ベートーヴェン / 平野昭 / 新潮文庫
THIS IS Modern Music これが現代音楽だ♪♪♪ ライナーノート / 白石美雪 / LONDON POCL-2315

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