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218.チャイナナ

2009.11.14


 チャイコフスキーの交響曲の数は、というと番号付きが第6番まで、番号のついていない「マンフレッド」交響曲を合わせて7曲というのが知られているところです。私の中学生のころは街のレコード屋さんでも全て入手できたのですが、今ではかなり大きめなCD屋さんに行かないと置いてありません。ネット通販により入手自体は問題ありませんが、お店をブラブラ眺めるという楽しみは無くなってしまいましたね。
 作曲家の解説本などを見ても、チャイコフスキーの交響曲はこの7曲と書かれており、第7番の存在などは思ってもいませんでした。

 私が最初に第7番の存在に気付いたのは学生時代、住んでいた長野市のレコード屋さんで見つけたものです。レコードジャケットの裏側には解説があったのですが、「作曲者が気に入らなくて破棄してしまった・・・」程度のことしか今は覚えていません。チャイコフスキー好き、かつ、珍しい物好きの私は「欲しい!」と思ったのですが、学生の身分でお金の持ち合わせがなく買わずに帰りました。1,500円位の廉価版だったのですがねぇ。まぁ、売っているものだからいずれまた買うことも出来るでしょうと思っておりました。

 その後なかなか巡り合うことがなく、また積極的に探すこともなかったのですが、15年程前(1994年だと思います)に別の形で出会います。

 TCHAIKOVSKY Complete Works for Piano and Orchestra (チャイコフスキー、ピアノとオーケストラのための作品全集)という2枚組のCDを購入いたしました。収録曲目は、ピアノ協奏曲第1~3番、アンダンテとフィナーレ作品79、コンサートファンタジー作品56です。かなり珍しい曲が入っています。演奏は、エリアフ・インバル指揮、ピアノ独奏ウェルナー・ハース、モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団、1970~1971年の録音です。(PHILIPS PHCP-9069~70)
 このCDの解説(出谷 啓さん)によりますと、
・ピアノ協奏曲第3番は最初交響曲として作曲されていたが、「悲愴」の着想を得たため途中で破棄してしまった。
・「悲愴」完成の後に、破棄した交響曲をピアノ協奏曲第3番として転用することを思いつく。通常通り3楽章の協奏曲にするつもりだったが、「不恰好に長すぎる」という理由から、第1楽章だけ、小協奏曲(コンツェルトシュトゥック)とすることにした。しかし、結局は未完成。
・第2、3楽章になるはずだった楽章は、弟子のタニェイエフがオーケストレーションしてアンダンテとフィナーレ作品79とした。
と、ありました。ということで、このピアノ協奏曲第3番が交響曲第7番といわれる曲と関係があるのだなと想像しました。
 実際、それ以前にピアノ協奏曲第3番のCD(LONDON F35L-50121)は持っていまして、そちらの解説(宇野功芳さん)には、
「・・・ボガチレフがチャイコフスキーの「第7交響曲」としてアレンジ、発表した。」と書いてありました。あぁ、こっちの記憶は無かったなぁ。

 ということで、第7番がどのような経緯の曲かはなんとなく分かりました。

 次にお目にかかったのが3年前、2006年の初夏でしたかねぇ。西本智実さんが、「チャイコフスキーの新発見の交響曲『ジーズニ(人生)』を初演する」といったコンサートのポスターを見かけたのです。当時東京に住んでおりましたので、聴きに行くことは出来たのですが、すでにチケット完売だったか、高価すぎたためだったかで行きませんでした。しかし、新発見の交響曲とは何なのか? 第7番のことではないのか? 初演ということは第7番とは別の曲なのか? という疑問は残りました。気には掛かっていましたが、特に調べることもなく忘れておりました。

 そして、先日のタワーレコード。クラシックフロアの入り口に堂々と、
「チャイコフスキー交響曲第7番」が平積みされています。こんなにあるけど、いったいこの珍曲をどれだけの人が買おうと思うのか、と思いましたが。演奏は、オーマンディー&フィラデルフィア管弦楽団。ロストロポーヴィチ&ワシントンナショナル響の「悲愴」との2枚組(SONY SICC1208~9)です。定価の10%引きで1,700円ということでしたので、買いました。
 早速聴いてみると、確かにピアノ協奏曲第3番です。しかし、ピアノが出てくる!と思ったところでオーケストラのままです。こちらも解説を読んでみますと、第1楽章はピアノ協奏曲第3番から、第2、4楽章には、アンダンテとフィナーレ作品79が充てられ、第3楽章は、ピアノ曲集『18の小品』作品72から持ってきているようです。これらを寄せ集めて、ボガティレフが1956年にまとめ上げたと書いてあります。
 となると第2~4楽章は、チャイコフスキー自身は作曲(スケッチ)はしたもののオーケストレーションはしていないことになりますし、そもそも交響曲のために書かれた物ではないようです。こうなってくると、バリー・クーパーの作曲したベートーヴェン交響曲第10番に近いものを感じますねぇ。オーマンディ&フィラデルフィアなんていうビッグネームがこんな胡散臭い曲を演奏してはイカンと思うのですが、当時はそれなりの価値を認められていたのでしょうか。

 さて、件の西本さんの「ジーズニ」ですが、ネット検索してみますといろいろと分かりました。ボガティレフ版とは別物なので初演ということなのでしょう。ネット上の意見もいろいろと見ることが出来まして、好意的でないものが多いようですね。大枚を叩いて聴きに行くものではなかったということでしょう。

 私としては、長年に亘る謎だった曲を入手できまして、まずは良かったということで、今回はおしまいです。


【参考文献】
・各CDの解説 文中にCD番号で示しました。

・The Web KANZAKIチャイコフスキー交響曲 変ホ長調の概要と演奏
http://www.kanzaki.com/music/perf/tsc?o=sym.7 

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