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215.本番中の心境

2009.10.25


 さて、本番当日の心境などからを書いてみたいと思います。
 朝、起きたときから「一丁やるぞ」と気合が入っております。会館に入ると、やはり気分は盛り上がって行きます。ここの所、土曜の夜が本番というパターンが多いので午前中は音出しはせずに、係りの準備や、照明などの打ち合わせをしております。やはり、この日にしか行わない打ち合わせなので平静を装いつつもテンションはあがってきます。

 午後になりますと、最後のリハーサルが始まります。指揮者としましては、最後にもう一押し曲の仕上げをしたいのですが、演奏者の皆さんは本番のために体力を残しておくために、あまり練習をしたくないようです。それでも私が押し通してしまいますと「本番を2回やったようなもんだ。」と演奏者の皆さんからクレームを頂くところであります。実際に、演奏会終盤でスタミナ切れがありありと分かったときもありましたので、私も反省している次第です。幸いにして今年は、当日前までに完成度がある程度上がっていましたので、あまりしつこくせずに済みました。
 ただし、パートによっては初めてメンバーが揃う(皆さん、それぞれご都合があり、仕方ないことなのです)なんていう所もありますので、そのパートのために要所の練習は必要になります。

 リハーサルは進行や照明の確認も行います。ちゃんと台本はあり、事前の打ち合わせもしてあるのですが、やはりステージで初めて合わせるとなると、思わぬところでおかしなところが発見されます。これが起きますと、演奏者の中にイライラして来る方がちらほら見え始めます。それこそ平静を装おうとしているのですが、場合によっては険悪な雰囲気がほのかに漂うこともあります。
 大抵、リハーサルの時間というのは予定より遅れ気味になりまして、慌しい気分になってきて、演奏会を楽しもうという気分はひとまず隠れてしまいます。リハーサルが終わった時点で、ホッと安心してしまうこともあります。
 指揮者としましては、やり残してしまった事については「まぁ、いいか。」と諦めることになります。実際は、本当に心残りなのですが。

 そして諸々のステップを経まして、いよいよ開演となります。

 一応私も経験を積んでまいりましたので、本番直前にステージ袖で緊張してしまうなんてことはありません。スタッフの皆さんに挨拶をして、颯爽とステージに出て行きます。
 普通に歩くと、ちょっと猫背っぽくてせせこましく見えます(後でビデオを見ると気付くのです)ので、胸を張ってゆっくり目に歩こうと思っているのですが、まぁ、忘れてしまうこともあります。
 お辞儀も深くゆっくりを心がけています。指揮台に上がり、降り始める直前、「仏頂面はイカン、笑顔を作らなければ。」と思うのですが、自然な笑顔というのは難しいですね。
 振り始めて、演奏が始まります。ところが、演奏中の記憶というのはあまり残っていないのです。ミスや失敗があれば、記憶に残っているのですが、普通に演奏できているところは憶えていないのです。何も考えていないわけではないのですが。夢の感じに似ていますでしょうか。起きると忘れてしまうという。なんとなく「良かった」という印象が残っている感じです。(そうでないときは、ダメだったという記憶が鮮明に残っています)
 他には、出来の悪い曲で指揮のとおり音が出て来ないときには、その場から逃げ出したくなることもあります。幸い今回の演奏会ではありませんでしたけれど。
 練習では、気になるところを止めては指示をしているので、一曲全部を通す回数というのはそれほど多くありません。本番になりますと、止めたくても止められないと言うストレスもありますね。練習で出来るだけ多く通しを行い慣れておく事が出来ればよいのですが、短い練習時間ではなかなか出来ません。昨年の『展覧会の絵』などは30分以上掛かる曲なので、本番前に通した回数は2回だったと思います。まぁ、これには演奏者の皆さんにとっても相当なプレッシャーとストレスがあったと思います。

 そんなことを繰り返して何曲か進んでいくのですが、途中で体に異変が起きてくるのです。とくに、ゆっくりppで演奏するようなところ。手が震えてくるのです。それを見た方は「緊張している。」と思われたようですが、決して気持ちは緊張しているわけではないのです。体がいう事を聞かないという感じ。先に書いたように「逃げられない」という状況を体が察知して震えちゃうのでしょうか。これは困ったことです。
 休憩時間などに、指揮棒を持って深呼吸をして指揮棒が止まっている様に落ち着かせるようなことをしています。

 演奏会は進み、最後のメイン曲の演奏になります。一番難しい、盛り上がる曲になります。大抵の場合は、振り間違えて曲を壊さないように必死なのですが、時々余裕がある時などは、
「終わってしまうなぁ、もっと続けばいいのに。」とか『のだめカンタービレ#5』で千秋がシュトレーゼマンの指揮でラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏したときの様な心境にもなります。いい気分の時間というのは長くは続かないものですね。

 さて、メイン曲が終わると盛大な拍手を頂きまして、アンコールへと続く儀式が始まります。プロではないので、お客さんに長々と手を叩いていただくのは気が引けるのですが、一通りソリストなどを立たせて、舞台袖に2回は引っ込み、そしてアンコールの演奏となります。通常、アンコール曲というのは、大曲が終わった安心から伸び伸びとしたいい演奏になるのですが、今年の場合はアルトの高山さんに歌っていただくということで、実は一番緊張した曲でありました。でも、最後に決まったときは気持ちよかったです。
 アンコールの2曲目も終わったところで終演。
 満足感と同時に、ヘトヘトです。それでも興奮状態で笑顔になり、ロビーへ行ってお客様のお見送りを致します。ここで、お褒めの言葉などいただきますと本当にうれしくなります。

 その後は、会館の後片付けをして、打ち上げへとなだれ込んでいくというわけです。

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