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174.続・初心に帰って編曲について考える

2009.1.18


 安直に続編の設定であります。

 もう一枚のCDと言うのは、フレデリック・フェネル指揮により東京佼成ウィンドオーケストラの録音、「CHAMBER SOLOIST SERIES Vol.1 SYMPHONIES」というアルバムで、ベートーヴェンの交響曲第7番、モーツァルトの交響曲第39番第1楽章、ハイドンの交響曲第92番が収められています。
 ベト7の吹奏楽版が出ているじゃないですか、と早とちりしてはいけません。東京佼成ウィンドオーケストラの演奏とはなっていますが、編成は一般的な吹奏楽ではなく、管楽九重奏となっています。詳しくは、オーボエ、Cクラリネット、Gホルン、バズーンが各2本、コントラバズーン1本の九重奏、この録音ではフェネルの考えによりストリング・ベース1本が加えられています。同様にモーツァルト、ハイドンは管楽十重奏となっています。
 10人程度でベートーヴェン交響曲第7番を演奏してしまうというのは驚きです。演奏者に対してかなりの高技能を要求するのは当然ですが、編曲が原曲の魅力を損なわない優れたものでなければならないのです。少人数への編曲というと、音を減らすことになるわけですが、原曲の縮小化に陥ることなく、新たな創造ももたらさなければなりません。大変難しいことです。

 では、この編曲がいつ行なわれたものなのかというと、私たちは吹奏楽が活発になってきた、ここ50年程度のものと思ってしまいがちですが、CDのライナーノーツによると、編曲者は明らかではないとしながらも、

フェネルはベートーヴェンが許可してトリエベンゼーにに書かせたものではないかと推察しています。

と書かれています。トリエベンゼーとは、ヨゼフ・トリエベンゼーといい1777年から1846年に生きた、宮廷楽団のオーボエ奏者だったそうです。ベートーヴェンと同時代に生きており、ベートーヴェンに編曲を許可されているというところが大変興味深いところです。

秋山紀夫さんのライナーノーツ解説によれば、
 管楽器のアンサンブルについては、古くは11~13世紀に起こり、14~15世紀には古い木管楽器のアンサンブルが盛んになり、16~17世紀にかけてはブラスアンサンブルが流行しました。18世紀にはヘンデルが「水上の音楽」「王宮の花火」を管楽器編成で作曲しています。王宮やサロンでの付随音楽的にディヴェルティメントやセレナーデ、フェルトパルティテン(野外組曲)などが多く作曲され、ハイドン、モーツァルトも作品を残しています。
 その後、管楽アンサンブルは18世紀後半にひとつのピークを迎え、19世紀に入るとより室内楽的な木管五重奏のような形態か、軍楽隊の合奏の両極端に分化していきました。(要約抜粋)

  私たちはアンサンブル曲を選ぶ際に現代作曲家の作品を選びがちですが、こういった古い時代の曲を選んでみるのもいいかもしれませんね。譜面の入手は困難かもしれませんが。

 このようにベートーヴェン以前の時代から管楽アンサンブルはある程度盛んに演奏されていたことは判ります。

 さて一方、ベートーヴェンは編曲についてどのような考えを持っていたのでしょうか。トリエベンゼーに編曲を許可したということですから、一定の考えはあったようです。詳しくは、国立音楽大学 音楽研究所 ベートーヴェン研究部門にあります土田英三郎さんの論文
 「いっそうの普及と収益のために」- 編曲家としてのベートーヴェン
を読んでみてください。
 ベートーヴェンは編曲に対して積極的に利用したと思われる面も見受けられます。それは、作品を広く普及させるため、楽譜出版上の戦略(平たく言えば収入を得るため)という大きな二つの意味がありました。
 論文によれば、「・・・楽譜を侵すべからざる神聖なテクストと考える近代的な意識がまだ希薄な時代である。(中略)編曲ものが音楽マーケットの重要な部分を形成していたことは少しも不思議ではなかった。 」とあり、前回編曲者の悩みとしてあげた「作品の精神を曲げてしまう」事などはほとんど考えられていなかったように思われます。
 論文内では、ベートーヴェンの交響曲の編曲について、第2番のピアノ三重奏版、第4番の弦楽五重奏版、第7,8番の2手ピアノが見られます。
今回のCDの管楽九重奏版についての言及はありません。

 ベートーヴェンの生きていた時代が、現代のように吹奏楽が盛んだったら、ベートーヴェンは吹奏楽版編曲を良しとしたでしょうか。きっと、良しとしたでしょう。しかし、それに当たっては自身が監修し納得した上で出版ということになったでしょうね。(本人が監修するということは、「作品の精神を曲げない」ことになるのでしょうね)
 残念ながら私の編曲については、ベートーヴェンさんに監修してもらえないので、海賊版ということになってしまいます。それも、かなり粗悪な、、、、。
 なんか、落ち込んでしまいそうですが、それでも全曲完成まで進めていくのでありました。


【参考文献】
SYMPHONIES / Beethoven, Mozart, Haydn / Tokyo Kosei Wind Orchestra / Conducted by Frederick Fennell / KOCD-2711 ライナーノーツ(解説 秋山 紀夫)

国立音楽大学 音楽研究所 ベートーヴェン研究部門
国立音楽大学『音楽研究書年報』第14集(2000年度) より
 土田英三郎(論文)
 「いっそうの普及と収益のために」- 編曲家としてのベートーヴェン 

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