直線上に配置

94.憶えられますか?

2007.7.7


 私の女房という人は、現在、競技かるたに一生懸命取り組んでおります。競技かるたというのは、時々TVでも見られると思いますが、『畳の上の格闘技』といわれるほど激しいスポーツでもあります。上の句の最初の音がするかしないかの内に手が動くスピードは、凡人の目には信じられないものがあります。

 競技かるたで重要なのは、記憶力であることは言うまでもありません。百人一首、百首すべてを憶えるのは当然、上の句の頭の数文字(決まり字と言います)で下の句を思い出すことが出来ないとお話になりません。そのうえ競技ともなれば、取り札の配置も憶えなければなりません。競技開始前の15分間で憶え、更に競技中にも刻々と変化していくわけですから、並大抵の記憶能力ではありません。
 その記憶力の上に、反射神経など運動能力が必要になってくるわけです。
 それで、女房と子供が家で練習をする際には、私が読み手をしたことがありました。百首すべて読むのですが、一日に2、3回、それを何日もやったわけですか、相当回数を読んだ事になります。とすれば、私だってかなり憶えただろうと思うのですが、実際は全く憶えることはなかったのです。憶えていたのは、小学生時代に憶えた17首程度です。やっぱり、憶えようと思って読んでいないのでダメなのでしょう。

 女房について言えば、上で書いたような記憶力を持って競技かるたの大会へ出場したりしているのですが、さぞかしいい成績を取って来るだろうと思っていると、コテンパンに負けて帰ってきます。しかも、かなり初心者に近いクラスで。そうなると上級クラスの人たちの能力と言うのは、信じられないものがあります。世の中には大変な能力を持った人が大勢いると言うことが良く分かりました。

 そういうわけで、私の物を憶える能力と言うのは大したことがないのではないなぁ、と思うようになってきたのです。


 それで、強引に話を音楽方面に持ってくるわけですが、音楽についても憶えることはいろんな場面で出てきます。

 まず、曲を憶えるということ。初めて聴く曲を何回くらい聴くと憶えることが出来るでしょうか。まぁ、憶えると言ってもいろいろな段階がありますから、例えば、曲の大まかな構造がつかめてメロディーが鼻歌となって出てくるくらいとしましょう。その曲を知っていると言えるくらいでしょうね。
 私の場合は、大体20回くらい聴かないとそうにはなりませんねぇ。ですから、ブルックナーの交響曲を知っていると言えるようになるには、膨大な時間が掛かってしまうわけで、、、。
 普通の人の場合は、どれくらいで知っていると言えるようになるのでしょうか。皆さんは、どうですか?。「5回も聴けば十分」と言う人ならば大したもんだと思ってしまいます。
 モーツァルトには、門外不出と言われたアレグリ作曲の「ミゼレーレ」という9声部からなる曲を一回聴いただけで憶え、譜面に書き写したと言う逸話があります。「ミゼレーレ」という曲がどんな曲か知りませんが、やはり大変な能力と言わざるを得ないですね。譜面にまでしてしまったのですから。

 この、曲を覚えるということに関してちょっと気になっていることがあるのです。以前に紹介しました、最相葉月さんの「絶対音感」の中からです。
(162ページ) - また、ある高校生は、他の生徒が練習していた曲を部屋の外で聴いていただけで覚えてしまい、曲の名前も知らないのに、翌日ピアノで弾いた。 -
このあと、絶対音感を持ったために他の能力(例えば、記憶力)も身に付けることが出来るではないか、と続いていきます。これは、作者が得た取材の中にあるもので、作者の考えそのものではないのですが、私が気になるというのは、絶対音感があれば、すぐれた記憶力を持てるのだろうか、ということです。練習しているピアノを聴いただけで、曲を憶えられるものだろうか、と。
 たとえば、「絶対音感」を「日本語」、「曲」を「詩」と置き換えてみれば良いと思います。私たちは、たいてい日本語を不自由なく使っているでしょう。だからといって、ある「詩」を一回聞いただけで憶えることは出来るでしょうか? 全体の意味的なことは憶えられるでしょうが、一字一句憶えられるというのは、ある種得意な能力だとは思うのですが。絶対音感というのは、そこまでの能力を含むのかなぁ、と気になっているのです。
 うーん。会社の同僚にも絶対音感を持っているヤツがいますし、ピアノの先生にも知り合いがいますから、今度機会があったら聞いて見ることにしましょう。、

 とにかく、私にはそのような能力はないということで、今回はお終いです。

【参考文献】
ウィキペディア フリー百科事典
http://ja.wikipedia.org/wiki/モーツァルト

絶対音感 / 最相葉月 /小学館文庫

前を読む 『休むに似たり』TOP 次を読む



Copyright(C)2005-7 T.Miyazawa All Rights Reserved.

直線上に配置