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91.微妙

2007.6.17


 多分、12年ほど前だと思います。私が地元の市民吹奏楽団で指揮を務めていた時の話。あるとき、地元中学の吹奏楽部顧問の先生がお手伝いで顔を出してくださることになりました。この先生、ホルンを専攻されていて大層上手い。また、吹奏楽部顧問としても、ある学校の弱小吹奏楽部をコンクール県代表にまで育て上げたと言う実力のある方です。まあ、当時の市民吹奏楽団は休眠状態から復活したばかりで、勢いこそありましたが実力はそれ相応と言う感じの状況でした。

 その先生には、何度か練習に出ていただき、また市の行事などで中学吹奏楽部と合同演奏したり、といったお付き合いとなりました。

 あるときの何かの本番前の休憩時間に、その先生はステージ袖でホルンを吹いておりました。曲はウェーバーの「ホルンとオーケストラのための小協奏曲」。なかなか難しい曲ですが、ホルン奏者としては必須の曲でしょう。
 私は近寄っていき「ウェーバーですか」と声をかけました。先生、ちょっと驚いた感じで「そうです。でも、こんなところでウェーバーを知っている人がいるとは、、、」と、言うわけです。「こんなところ」と言うのは失礼な気もしますが、まぁ実際、そういうところですからねぇ。
 一通り、ホルンコンチェルトの話なんかをして最後に先生が私に尋ねてきました。
「どこか、音大を出てらっしゃるのですか?」

 私は、音大は出ていないことを伝え、出身校とそこでプロの先生とお付き合いがあったことなどをお話しました。が、
この「音大を出ているのですか?」と言う質問、なかなか微妙なのではないでしょうか。どうしてこういう質問が出てきたのか。

ひとつ、
 「結構な指揮の腕前だから、音大くらいは出ているだろう。でも、この地域で吹奏楽の指導をしている人の出身大学は分かるはずなのだが、この人のことは知らないなぁ。」

もうひとつ、
 「なんか偉そうなことを言って指揮してるから、音大くらいは出ているだろう。でもこの程度のレヴェルの音大ってどこだぁ?」

でもって、私は音大を出ていないと答えたわけですから、先生の反応はどうだったでしょう。

前者の場合は、
 「音大を出てなくて、あの実力は凄いなぁ。」でしょうし、
後者の場合は、
 「やっぱり音大を出てないのか。実力もないのに、偉そうなやっちゃ」でしょうね。

 果たして、先生の考えはどちらだったのでしょうか。今でも時々思い出して、「微妙だなぁ」と悩んでおります。 

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