弦楽器のパートを管楽器に移し変えるときに、最初にぶち当たる壁が音域の問題です。音域というのは、その楽器が出すことが出来る音の範囲ですが、楽器によって違うわけです。 吹奏楽に使われる楽器の音域というのは、前回も参考文献として載せました、バンドのための編曲法を見て参考にしています。 弦楽器パートを主に受け持つことになるクラリネット族について見てみると、
クラリネット族の音域としてはD1からB♭5までの約5オクターブ言うことになります。 一方の弦楽器の音域はどうでしょうか。
更に困ったことに上の表は音が出せる範囲ということであり、実際に演奏上音楽的に使える音域はもっと狭くなるのです。クラリネットの最高音域辺りは非常に鋭い耳障りな音になりやすいので、どうしても使う場合は慎重に考えなければなりません。 全日本吹奏楽コンクール課題曲作曲公募要綱では標準音域表というのを設定していて、この音域内で作曲するように指定しています。
この音域表によるとクラリネット族の音域はF1からF5までの4オクターブとなってしまいます。困りました。 対処方法としては高音域側は、フルートがC6、ピッコロがC7まで出ますので、このフルート族に受け持ってもらうことになるのですが、考えなければならないことはあります。 例えば、原曲でヴァイオリンとフルートが掛け合いなんかしていた場合、ヴァイオリンパートをフルートに当ててしまいますと、掛け合いがなくなってフルートだけの単調な音楽になってしまいます。掛け合いを復活させるためにもとのフルートパートを別のパートで演奏しなければならないのですが、それがそちらのパートでは出せない音域だとすると、1オクターブ下げてみるとか、原曲のイメージを崩す恐れのある対応をせざるを得ません。 また、ヴァイオリンが高音域でハーモニーを組んでいた場合、やはり1オクターブ下げないと対処できない場合もあります。 低音域の方は、吹奏楽にもストリンクベースがありますので音域的にはカバーしているのですが、音の厚みということを考えると、チューバ、ユーフォニアム、バリトンサックス、テナーサックスといった中低音楽器を総動員することになります。 また、弦楽器というのは運動能力にも優れているため、チェロやコントラバスの低音域で早いパッセージがあると、管楽器では超絶技巧を要することになってしまい、アマチュアでは演奏不可能な場合もあります。そういう場合は、1オクターブ上げなければならないのですが、こちらも原曲のイメージを損なう恐れがあります。 更に更に、ヴァイオリン単品で考えた場合でも4オクターブの音域があるため、メロディーが広い音域を使っている場合は、クラリネットだけでは演奏できず、途中からフルートに移るなどという苦しい対応をしなければならなくなります。 そんなことを考えながら編曲をしているのですが、3rdクラリネットやアルトクラリネット、バスクラリネット、テナーサックス、バリトンサックスなどは、低音の限界を使いまくるという困った編曲になっていることが良くあります。 実際に吹奏楽団で音を出して確認できれば、どのくらい変更を加えてもよいか判断が付くのですが。 弦楽器の音域の広さは、全く悩みの種になっております。 【参考文献】 バンドのための編曲法 わかりやすいオーケストレーション F.エリクソン 著 / 伊藤康英 訳 / 東亜音楽社 発行 / 音楽之友社 発売 全日本吹奏楽コンクール課題曲 -第18回朝日作曲賞- (作曲公募要綱) / 社団法人 全日本吹奏楽連盟・朝日新聞社 全日本吹奏楽コンクール実施規定 / 社団法人 全日本吹奏楽連盟 |