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56.ソイレントグリーン

2006.10.14


 これまた三十年程前という、ずいぶん以前のお話です。

 『ソイレントグリーン』という映画を見ました。見たといっても、テレビの『何とか洋画劇場』というヤツでです。当時私の住んでいた市には映画館がありませんでしたし、映画を見るといったら市外に出るか、テレビしかありませんでした。当時中学生の私としてはわざわざ市外に出てまで映画は見なかったということです。

 映画の(うろ覚えですが)筋を簡単に書きますと、
 そう遠くない将来、人口の爆発的増加と食糧不足が社会的な問題になっています。失業率も高く、街には失業者や老人があふれています。
政府の施策は、人口増加を防ぐために希望するものに安楽死をさせるというものと、食料の配給がありました。この食料というのが、ソイレントグリーンという緑色のクッキーのようなものなのです。(今でも私は、コンビニなどでベジタブル系の緑色のスナック菓子を見ると、「ソイレントグリーンだぁ」と思ってしまいます。)
 主人公(中年男性)は、このソイレントグリーンに疑惑を覚え、調査を始めます。この辺りの詳しいストーリーは憶えていませんが、最終的には衝撃的な真相が分かるというお話です。
 えー、なんだかあらすじになっていませんが、DVDも発売されているようですので、そちらの方でご確認ください。

 主人公には親しい老人がいるのですが、ストーリーの最後の方でこの老人が死を選び、安楽死施設へ行くわけです。それで、最期のときに音楽を流してくれるということで、「どんな音楽が好きか」と聞かれるのです。この老人はクラシックは知らないか、嫌っていたと思うのですが、ちょっと躊躇しながら「クラシック」と答えるのです。
 そこで流れてくる音楽がベートーヴェンの『田園』第1楽章なのです。

 「何で、『田園』なんだよぉ、、」
と、思いましたね。そんな大衆的なくだらない曲じゃなくて、もっと気の効いた曲にしろよと、思ったわけです、当時中学生の私は。

 要するに、死ぬ直前に一曲聴くことができるとしたら、何を聴きたいかということなのですが、さて何を選んだらいいでしょうか。

 話は変わりますが、ベートーヴェン全交響曲連続演奏会を指揮した岩城さんです。亡くなった後に放映されたTV番組でこんなことを仰っています。

「・・・何よりも、ストラヴィンスキーとかバルトークとかショスタコーヴィチとかメシアンとかが好きで、でも去年やってから、自分でやっている最中から変わっちゃって、ストラヴィンスキーやバルトークやメシアンがあんなに好きだったのに、そのくらいの作曲家でね、やってる途中に命を落とすってのはやだなって思ってね。その点、じゃあベートーヴェンとなると地球上の人類の一人としてこのベートーヴェンで命を失っても仕方がないかと。だから、ほんと悪いけどストラヴィンスキーさんやバルトークさんに命を捧げるのをやめちゃってね、この現代もの振りが、去年ベートーヴェンにのめり込んじゃって、、やっぱベートーヴェンというのはすごいですね。」
 2006年6月18日放映 NHK 「指揮者岩城宏之さんをしのんで」より

 これだと思いました。「ベートーヴェンで命を失っても仕方ない」。やっぱり命が関係してきたらベートーヴェンなのだな。だから、死ぬ前の一曲もベートーヴェンにしたいと。
 じゃあ、何番かとなると、盛り上がってしまうと死んでも死に切れない感じになっちゃいますので、やはり穏やかに『田園』かな、となるわけです。
 あぁ、ソイレントグリーンと同じだ。やはりベストの選曲だったのだなぁ。と、三十年程経って気付いたという次第です。

 というわけで、私の死ぬ間際にも『田園』をかけていただきたいと、今からお願いしておくわけです。

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