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35.トランペットとコルネット

2006.5.21


 吹奏楽譜の中にはトランペットとコルネットが両方編成されているものがあります。
 アマチュア吹奏楽団の場合、コルネット専門の人やトランペットとコルネットを両方持っている人は少ないでしょうから実際には区別をしないでやってしまうことも多いでしょう。

 現在では、トランペットとコルネットは音色の違いで使い分けられています。
 トランペットは鋭い音で遠くまで飛ばす、コルネットは柔らかい音でホール内に音を満たすという感じです。具体的に言えば、トランペットはファンファーレや信号ラッパ、コルネットはメロディーやコラールを演奏するのに適しているでしょう。
 もちろん楽器の表現力は幅広いものですからこれに限ったものではありません。指揮をしていてトランペットの柔らかい音がほしい時はそう指示しますし、コルネットに持ち替えてとは言いません。あくまでもトランペットとコルネットは別の音なのです。

 昔、あるバンドにトラで行ったときに、トランペットパートをトランペットより鋭い音でコルネットで吹いている人がいてあきれてしまいましたが。コルネットで吹く意味ないじゃんって感じです。

 ベートーヴェンの交響曲では、トランペットのみが使われています。当時のトランペットはバルブのないナチュラルトランペットでしたので、演奏できるのは自然倍音列のみ。曲の調が変われば、持ち替えとなります。ですから、メロディーは殆どなく、大抵は信号ラッパのようなパッセージです。

 私の編曲ではどうしているかというと、
 トランペットはほぼそのままで2パート。
 コルネットには弦楽器パートのメロディやトレモロを割り当てるようにしています。こちらも2パート。原曲のイメージをそのまま(というより、自分のオリジナリティーで編曲する能力が無いので)に編曲するようにしていますので、あまり多用はできません。
 このように合計4パートになるわけですが、原曲に金管楽器向けの音形が少ないために暇なパートになっています。まだ見ぬプレーヤーに対し申し訳ないなあと思っていますが、仕方ありません。ベートーヴェンをはじめこの時代以前の吹奏楽編曲が少ないのはこういう理由がある所為かもしれません。

 話は逸れて行きますが、「第9」とベルリオーズの「幻想交響曲」の作曲された年の違いはわずか7年です。しかし、トランペット、コルネットの用法には大きな差があります。その間にヴァルブつきのコルネットが発明されたということなのです。「幻想交響曲」以降の曲はよく吹奏楽に編曲されていますね。

ひとつ参考までに。
 実は、コルネットとトランペットの用法は、『名曲の「常識」「非常識」』によれば楽器発明当初は違っていたようなのです。その部分を引用してみます。

したがって、トランペットとコルネットの違いは、今日考えられているような音色の違いではなく、むしろ両者の背負っている伝統から来る概念と用法の違いの方が大きいのである。
(中略)
つまりこの時代(19世紀)にコルネットに求められたのは、トランペットの伝統の呪縛から開放された「歌謡性」と、トランペットよりも短い管から得られる「運動性」と「安全性」であり、今日求められているような「音の柔らかさ」ではないことは明らかである。


 というわけで、19世紀の曲の場合トランペットとコルネットの楽器指定があっても、それほどこだわるものではないことになります。作曲者の意図を知ることが大切ですね。


【参考文献】
・名曲の「常識」「非常識」 オーケストラの中の管楽器考現学
   p155〜p118 トランペットとコルネットのねじれ現象を探る
 佐伯茂樹 著 音楽之友社 刊 

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