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22.ベートーヴェンは凄い!

2006.1.4


 ベートーヴェンは凄い! 全交響曲連続演奏会
 最初に知ったのは、2004年の秋ごろに行ったコンサートでもらったチラシでした。「岩城さんもまた大変なことをするなぁ」と、半ば呆れたというのが正直なところです。
 しかし、こういう企みも一度は見ておくのもいいだろうと思ったのですが、曲だけ聴いても6時間余りの長時間、一人でいるのも寂しいものです。何人かに声をかけたのですが、もとよりクラシックファンだとしても躊躇してしまう内容のコンサートです。付き合ってくれる人を見つけられないまま、一人でも行こうか迷っているうちにチケットは売切れてしまったのでした。こうなるとどうしても聴きに行きたくなります。「来年はきっと行くぞ。」と心に誓ったのです。来年やるかどうかは分からなかったのですけど。

 そして2005年。夏過ぎに今年もやるというチラシを発見。会場は芸術劇場。私にとっては東京文化会館より行きやすいところです。早々と女房を説き伏せ、行くことを決定したのでした。11月初旬にチケットを予約。当日を待つのみとなったわけです。

 2005年12月31日、午後3時。開場前にもかかわらず東京芸術劇場、大ホール入り口には人だかりができています。通常のコンサート前にはない「殺気」のようなものも感じます。
 時間になり会場に入ります。座席は2階右側ベランダ席の最前列です。指揮者を真横から見るくらいのステージに近い席です。オーケストラを正面から聴かないことになるので左右のバランスは悪い様に思われるかもしれませんが、私にとっては指揮者の手の動きをじっくり見られる最高の席なのです。また、指揮者が舞台袖から入場してくるときには私に向かって歩いてくるのです。きっと何回も目が合ったに違いありません。(私は眼か疲れていてよく見えなかったのですが。)

 そして、コンサートは始まりました。

 音がしてまず思ったのは、
 「このオーケストラの音は現在の日本の最高なのではなかろうか。」。
ベートーヴェンの交響曲を一度にやってしまおうなんてことは、余りレベルの高くないオーケストラが話題づくりのためにやるのかな、と思って行ったのですが、フタを開けてみればとんでもない。メンバーのほとんどがN響所属というスペシャルオーケストラ。上手くないわけがありません。
 弦の音が厚く、そして熱い。ピアニシモは聞こえないくらい小さい音なのに弱々しくならず、フォルテシモはうるさくならない。そのダイナミックレンジの広さと、レスポンスの速さ。管楽器は、よく溶け込んで柔らかい音で豊かに響きます。更に、CDでは聴き取れなかった音がいくつも聴こえてびっくりしました。
 この一年で聴いた、最高の音がするオーケストラでした。

 第1番ハ長調 作品21
 室内楽的な小ぢんまりした響きを予想していたのですが、豊かに響くモダンオケの演奏でした。消して地味な曲ではないということを教えられました。
 第2番ニ長調 作品36
 スピード感が最高にある曲です。こんなにカッコイイ曲がなぜ有名でないのか、ちょっと不運な曲ではあります。
 ここまでは、一気に聴いていよいよ最初の山場です。
 第3番変ホ長調 作品55
 雄大なスケールで名曲と言われるわけがよく分かります。「天国的な長さ」と言われたようですが、本当に天国に連れて行かれた気がしてきました。4番から後は天上の音楽ですね。
 第4番変ロ長調 作品60
 きれいな音で、すっきりとした好きな演奏でした。3番から古典に戻ったみたいな言い方をされますが、私は3番より完成度が上がって無駄がなくなっているように思えます。
 ここで大休憩。一旦、会場の外へ出て食事をします。
 第5番ハ短調 作品67
 休憩直後の出だし、一瞬もたついた気がしましたが、すぐに全開です。終盤の盛り上がりは見事でした。涙が浮かびましたよ。
 ここで、指揮者岩城さんと三枝成彰さんのトーク。どうして4番の後で大休憩だったか、何番が好きか、ベートーヴェンは凄い、というお話でした。
 第6番ヘ長調 作品68
 今回のピカイチだったと思います。室内楽的な精密さと、開放的なスケール感、退屈さを感じさせない、6番がこんなに素晴らしい曲だったとは思いませんでした。
 第7番イ長調 作品92
 今回の注目はこの7番でした。私が今まで聴いた7番は「難しいんだ」と思ってしまう演奏ばかりで、相当のテクニックとスタミナを要する曲だと思っていたのです。交響曲を6曲も演奏した後で果たしてまともに演奏できるのか?
 とんでもない。そのスタミナはどこにあったのですか、というくらいパワフルな演奏。ここまでで最高の盛り上がりでした。
 第8番ヘ長調 作品93
 正直言って7番が終わった時点で、私はいっぱいいっぱいでした。8番もいい曲なのでじっくり聴きたかったのですが、すでに時間は夜11時。
吹奏楽でやるのは難しいなあ、なんて考えながら聴いてしまいました。

 ここで、金子健志さんと三枝成彰さんのトーク「〈第九〉における推理小説的現場検証」。主に版の話などでした。
 ベートーヴェンの時代の金管楽器にはヴァルヴがなかったので、音階やメロディーは演奏すると歯抜けになってしまった。ヴァルヴが発明された後にワーグナーなどが抜けた音を埋めてメロディーを演奏できるようにしたが、果たしてそれはベートーヴェンの真意に則しているのだろうか、というお話。吹奏楽に編曲する上でも悩んでしまうテーマです。
 
 時計は午前零時を回りました。2006年です。

 第9番ニ短調 作品125
 ここまで、たっぷり名演を聴いて「これ以上の曲は無いよ。」と思っていたのですが、〈第九〉が鳴り始めた瞬間、「やっぱ〈第九〉が最高だ、、、、」
 あとは70分一気です。時間の感覚がなくなりましたね。
 ブラボーの嵐、鳴り止まない拍手。本当に素晴らしかったです。9曲聴き通して一瞬たりとも退屈だと感じませんでした。

 本当に、ベートーヴェンは凄い。
 演奏した指揮者もオケも凄い。
 聴いた人も凄い。

 2006年も大晦日、会場の予約はされたそうです。
 もう一回聴きにいく?
 思い出は一回にしておいたほうがいいかな?

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