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402.『運命の力』序曲の編曲 

2014.6.28


 3月の後半2週間でG.ヴェルディの歌劇『運命の力』序曲を編曲したのであります。当団の定期演奏会で取り上げたいということになり譜面を探したのです。市販譜は何種類か有ったのですが、どんな譜面か分からないという不安があり、購入をためらっていたのです。しかし、それでは話が進まないので、「それならば編曲してしまえ」となったわけです。

 それにしてもパート譜の印刷まで含めて2週間というのは、異例の速さだと思いますよね。平日は会社勤めしている訳ですから。
 では、どのように編曲したか手順とその途中で考えたことを書いていきます。

 まず、スコアを入手しなければなりません。市販のポケットスコアを購入するのが通常ですが、今回は無料で公開されている物を利用しました。ペトルッチ楽譜ライブラリーというサイトです。PDFになっているので取り扱いも楽ですね。

 次は、MIDIデータの作成ですが、スコアからスコアメーカーで認識というのがいつもの手順です。今回はすでにPDFになっているのでスコアのスキャン作業は不要です。それでももっと時間を短縮したかったので、MIDIデータも無料で公開されているものを使用させていただきました。
 Classical Archives というサイトに無料の会員登録をしまして、MIDIファイルをダウンロードしました。

 ダウンロードしたファイルをFinale2012で開きます。この時点では、音符があるだけで記号の類は全く有りません。それに、音符に関しても細々と訂正が必要であり、ダウンロードしただけですぐ譜面になるというものはありません。スコアと照らし合わせながら、Finale上で原曲スコアを作成していきます。ここで原曲スコアとして完成するまでに10日を要しております。

 ここまでくれば、吹奏楽編曲ですからFinale上でサクサクと進むはずです。

 さて、編曲をする上でまず考えなければならない事は、調をどうするかです。原調が望ましいのですが、『運命の力』序曲は、
 ホ短調 (♯×1)から始まって、嬰ハ短調 (♯×4) に転調しホ長調 (♯×4)で終わる。
 という曲です。
 吹奏楽曲では♯の多い曲は難度が高くなります。練習時間も限られている訳で出来るだけ避けたいものです。移調を考えるのですが、通常の場合はヴァイオリンパートの高域を緩和するため低い方へ移調します。
 この曲の場合半音下げると、変ホ短調(♭×6)→ハ短調(♭×3)→変ホ長調(♭×3)となり、フラットの数が多くあまり良くありません。
 一音下げても、ニ短調(♭×1)→ロ短調(♯×2)→ニ長調(♯×2)で、まだ♯が多いのです。一見、♯が2個なので少ないように見えますが、変ロ調管、変ホ調管の楽器にとっては多いのですね。
 それに、パーカッションの先生から聞いた「低く移調するとティンパニの音域を外れる事があるんだよ。」という言葉も気になりました。
 そこで、半音上げることを考えます。ヘ短調(♭×4)→ニ短調(♭×1)→ヘ長調(♭×1)となり、吹奏楽でも問題のない調性になります。これを採用いたします。

 しかし、高い方へ移調することにより音域の問題が出てきます。ヴァイオリンパート、フルートパート、コントラバスなど元々音域のなかでも高い音を使っているので、更に厳しくなりました。ここは、思い切って1オクターブ下げるしかありません。無理をしても曲を壊すだけですから。注意することは、低くした音を重ねすぎて、曲全体が重くならないようにすることですね。

 次に考えたのは、パーカッションの事。ロマン派以前の曲はパーカッションを多く使っていないので、そのままだとパーカッション奏者がかなり暇になります。原曲のスコアでは、使用しているパーカッションはティ ンパニとバスドラムだけです。
 ところがですねぇ、オーケストラで演奏したCDを聴くと、シンバルの音も入っているのです。複数のCDでそうでしたから、譜面の版が違うのか、慣例になっているのかもしれません。
 さらに吹奏楽版のCDを聴いてみますと、楽器数も音符数もかなり増えているこが分かりました。ちょっとやり過ぎという気がするくらいです。
 そういった訳で、私もパーカッションの楽器、音符を不自然にならない程度に増やしていくことにしました。

 更に考えることがあります。ハープです。
 原曲では、ハープを2台使用することになっていて、

このようなアルペジオを演奏しています。ハープを使用できれば良いのですが、一般には厳しいでしょう。そこで、別の楽器で演奏することを考えなければなりません。よくやる手は、ヴィブラフォンやマリンバなどの鍵盤打楽器で演奏することですが、曲の雰囲気に合わないと思えます。クラリネットで演奏することも考えられますが、メロディーがクラリネットで演奏されているため、音色が重なるのは好ましくないでしょう。そこで、アルトサックスで演奏することにしました。
 また、アーティキュレーションは、ハープの発音を考えればスタッカートを指示したくなりますが、あえてスラーで滑らかに演奏するように指示しました。

 トロンボーンにも「オヤオヤ?」と思う音符がありました。

こんな速いパッセージは、トロンボーンにとってかなり困難です。何故こんなパッセージがあるかというと、バルブトロンボーンの使用が想定されているからなのですね。しかし、アマチュアトロンボーン奏者にバルブトロンボーンを用意させるのは無理な話。ユーフォニアムなどに移し替えます。

 そんな風にして、色々発見しながら編曲を完成させました。どんな音になるかは、また楽しみです。

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