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329.終楽章

2012.10.6


 「Finale」は、「最終楽章」を意味しているのだけれど、譜面に表記されたり、されなかったりバラバラなんですねぇ。ということを前回書きました。「Finale」というと華やかに終わるイメージがありますが、チャイコフスキーの『悲愴』に「Finale」の表記があるのは、なんとなく違和感がありますね。
 
 それぞれの曲は楽章数が決まっているので、例えば第4楽章をわざわざ「最終楽章」とか「終楽章」(表記する場合はこちらが一般的ですね)とかいう必要はないですね。
 ふと気づいたのですが、第4楽章のように数字で表す場合は、その曲のその楽章という固有の楽章を示し、終楽章という場合は曲を特定せず一般的に最後の楽章という意味を示すのではないかと、勝手に思ったのでした。まぁ、あまり意味のないことですが。

 ところがですね、上の様に私が気付いた用法とは逆になるのですが、「終楽章」という言葉を使った方がいい場合もあるのですね。次のCDの裏ジャケットの写真をご覧ください。


G.マーラー 交響曲第1番『巨人』 ユーリ・シモノフ指揮 ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団 (ロイヤル・フィルハーモニック・コレクション FRP-1072) 1994年録音

G.マーラー 交響曲第1番『巨人』 ロジャー・ノリントン指揮 SWRシュトゥットゥガルト放送交響楽団 (SWR MUSIC LC13312) 2004年録音

 明らかに写真によるページ稼ぎになっおります、、、。

 お気づきの通り、同じ曲なのでありますが、楽章数が違っております。ノリントンのCDには、第2楽章として『花の章』が挿入されており、その分、第2,3,4楽章がずれているのです。

 で、私所有のCDとレコードは、あと3枚ありました(『巨人』を5枚持っていたんだ、、、と改めて気付く私)ので、そちらも見てみます。

4楽章版
エリアフ・インパル指揮フランクフルト放送交響楽団 (DENON 33C37-7537) 1985年録音
5楽章版
小澤征爾指揮ボストン交響楽団 (PolyGram POCG-9674) 1977年録音
ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団  (レコード RCV RCL-1507)1969年録音

 また先日、私の編曲譜で演奏して頂きました、ニッポン・ウインド・シンフォニー(新田孝指揮)では、『花の章』は『花の章』として、『嵐のように激動して(Stürmisch bewegt)』は第4楽章として扱われました。(あ、『花の章』の編曲者は日景貴文さんです。)

 そういう訳で、『嵐のように・・・』を第4楽章と呼ぶのか第5楽章と呼ぶのか定まらないのですね。こういう時に、「終楽章」と言っておけば、どちらの場合でも間違いではないのです。 まぁ、4楽章版の第2,3楽章はどうするのだ、というツッコミはありますが、、、。


 そもそも『花の章』とは何物なのかということになります。それを説明するには交響曲第1番『巨人』の成り立ちを説明しなければならないのですが、いつものウィキペディアを見て頂くことにしましょう。

 要するに、最初は『花の章』を含む全5楽章の交響詩として発表し、その後改訂を重ね、『花の章』は削除され、全4楽章の交響曲となったということです。 『花の章』の楽譜の発見は戦後で、出版が1968年です。ということは、オーマンディの録音は出版後すぐに取り込まれたものですねぇ。


 この『花の章』のを加えて5楽章の交響曲にすることについて、金子健志さんは著書の中で次のように述べておられます。

 つまりBに属する《花の章》だけを,最終的な段階であるC”の全集版に挿入するといった解決法は,カラー写真で撮った4人家族の記念写真の中に10年以上前に早世した子の白黒フィルムを押し込んだようなもの ―――
注)  Bは第2稿、1893年ハンブルクで初演。C”は1967年の全集版。4楽章版。C”の元となったCは第3稿、4楽章版1899年ヴァインバーガー刊行の初版。
と、否定的です。

 また、ノリントンはCDの解説の中で、次のように述べておられます。

 花の章をボタンーつで飛ばしてしまうことは、所有者の自由である。しかしそうした人たちでも、マーラーがアムステルダムでメングルベルクに告げた言葉を聞いたなら、すぐに意見を変えてくれることだろう。「音楽を変えつづけていくのだ。私が死んでしまってもね!」。

 ノリントンは、「ピュアトーン」(ピリオド奏法とは言わず)といって、当時のオーケストラの再現(奏法、配置)を実践しています。その上での言葉ですからねぇ。

 私個人としては、マーラーが生きているうちに全4楽章としているので、『花の章』は別物と考えたいのですが、、、。

 さて、「終楽章」の話から、『花の章』まで脱線したところで、今回はお終いです。

【参考文献】
CD、レコードは本文中に表記
こだわり派のための名曲徹底分析 マーラーの交響曲 / 金子健志著 / 音楽之友社刊
ウィキペディア フリー百科事典 / 交響曲第1番_(マーラー)

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