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191.似ているではありませんか

2009.5.9


 そういうわけで「カルメン」をちょいと聴いてみたりして、編曲を思い立ったわけです。で、編曲をしているうちら、「おやおや、このメロディはどこかで聴いた事があるぞ。」という所が何箇所か出てきたのです。
 あぁ、そうです。チャイコフスキーの交響曲に似ている箇所があるのです。

 まず、「カルメン」組曲の前奏曲の終わりの3小節。譜面はこうなっています。

 (縦長でページ稼ぎの様になってすみません。)

 3/4拍子でシンコペーションのリズムがあって、「ジャン」と音がする様になっています。
 Midi Dataでお聴き下さい。
 ちよっとデータが上手くなくて、シンコペーションが判りにくいかもしれません。

 これがチャイコフスキーのどこに似ているかというと、交響曲第4番第1楽章、冒頭のファンファーレの途中です。3/4拍子でシンコペーションでジャン。です。
 譜面は、こうなっています。

 Midi Dataでお聴き下さい。

 あんまり似てないですか、、、まぁ、3/4拍子でシンコペーションでジャンですから、在りがちと言えば在りがちで、それだけで似ているというのは言いがかりかもしれませんね。譜面を見ているときは似ていると思ったんですがねぇ。

 気を取り直して次へ、

 「カルメン」組曲のアラゴネーズではオーボエがソロで次のようなメロディーを演奏します。

 Midi Dataではこうです。哀愁を感じるいいメロディーですねぇ。特徴は3/8拍子で八分音符を2つずつまとめるヘミオラのリズムにあります。

 では、チャイコフスキーの方は、同じく交響曲第4番第1楽章から第1主題のメロディー、

 Midi Dataはこうです。
 これは似ているでしょう。拍子9/8拍子になっていますが、ヘミオラであることと、アフタクトの取り方、付点八分音符~十六分音符のリズムの位置、下降音形など。チャイコフスキーの方が、より手が込んでいて感情に訴えるものが大きいです。私としてはこのメロディーは非常に好きであります。
 ビゼーは、このメロディーから美味しいところをパクッてアラゴネーズのメロディーを作ったに違いありません。これは問題です。

 更にこんなにそっくりなところがあります。「カルメン」組曲の間奏曲、有名なフルートのソロの曲ですが、後半はメロディーの最初の一小節を繰り返し、山を作っています。このメロディーですね。

 譜面だけでお分かりになるかと思いますので、Midi Dataは付けませんが、大体お分かりになるかと思います。
 さて一方チャイコフスキーはどこにこれがあるかといいますと、交響曲第5番第2楽章、有名なアンダンテ・カンタービレのメロディーのあとの東洋的な感じのメロディーといわれるものです。クラリネット、バスーンのあとで弦楽器が奏するメロディーが、こちらです。

 見ただけでそっくりですね。もちろん調やオーケストレーションは違うので、直ぐには気付きにくいのです。
 作曲家だって、そうバカではないので直ぐにバレるようなパクリはしないでしょう。

 そのほかにも、いくつか「雰囲気がよく似ているなぁ」と思える曲もあり、ビゼーは「カルメン」の中でずいぶんチャイコフスキーからメロディーを頂戴しているんだということが判りました。

 まぁ、音はオクターブの中に12個しかないのだし、メロディーとして使える音形も無限というわけには行きません。リズムのパターンだってそう多くはありません。多くの作曲家が、沢山の曲を作っているわけですから、似ているものがあるのは不思議ではありませんね。しかし、一曲の中で、こんなに似ているところがあるというのも、いかがなものかなぁと感じてしまいますよね。

と、ここまで書いておいて「本当かね?」と調べてみることにしました。ビゼーはチャイコフスキーからメロディーを剽窃できたのか。

 まず、両作曲家の生存年。
・チャイコフスキー 1840 ‐ 1893 53歳で没
・ビゼー       1838 ‐ 1875 36歳で没
 あれ、ビゼーの方が年上でしたか。私はてっきりチャイコフスキーの方が年上かと思っていました。これはきっと学校の音楽室に貼ってあった肖像画の影響ですね。ビゼーの方が若くして亡くなっているので肖像画も若かったのです。

 いや、これだけでビゼーの疑いが晴れるわけではありません。それぞれの曲の作曲年代を見てみます。
・ビゼー「カルメン」 作曲年代は調べられませんでしたが、初演は1875年
・チャイコフスキー
 交響曲第4番 1877年5月 ‐ 12月26日
 交響曲第5番 1888年6月 ‐ 8月26日
 
 「カルメン」の方が先ですねぇ。私の疑ったビゼーは無罪でした。では、チャイコフスキーがビゼーからパクったのでしょうか。まぁ、チャイコフスキーのメロディーの方が拡大されていてオーケストレーションも手が込んでいますので、パクったというよりは、参考にしたか、影響を受けたというところでしょう。

 ウィキペディアの「カルメン」の項を見てみると、
歌劇『カルメン』はドビュッシー、サン=サーンス、チャイコフスキーなどから賞賛され
 と書かれていますから、チャイコフスキーがカルメンから影響を受けたことは十分に考えられます。
 また、アラゴネーズなどはスペイン、アンダルシア地方の民族舞曲から採ったとされていますから、ヨーロッパを遍歴したチャイコフスキーが同じ民族舞曲からインスパイアされていてもおかしくはありません。

 ということで、「似ているなぁ」と思ったことは、それだけのことで、パクったとかいうことは考えるべき事ではないのですね。
 私の思い過ごしという事でした。
【参考文献】
スコア
ビゼー / 『カルメン』第1組曲 / 日本楽譜出版社 76 / 解説 溝部国光
チャイコフスキー / 交響曲第4番 / 全音楽譜出版社 / 解説 園部四郎
チャイコフスキー / 交響曲第5番 / 音楽之友社 OGT81 / 解説 堀内敬三

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