編曲をするにあたって考えることのひとつに『調』の問題があります。 ハ長調とかへ長調とか言うあれです。調は12の音に対してそれぞれ長調と短調がありますので、合計24の調があることになります。 作曲者は、これらの調の中から意図する音楽に合うひとつを選んで曲を作り上げていきます。ですから、調を変えてしまうということは作曲者の意図を曲げてしまうことになるのです。 よく弦楽器はシャープ系、管楽器はフラット系の調が得意といわれます。指使いの容易さや音程の安定しやすさから、そういわれるのでしょう。ですからオーケストラ曲を吹奏楽に編曲する場合、原調ではどうしても演奏しにくくなってしまう場合が生じてしまうのです。 作曲者の意図を(出来るだけ)曲げるないために、無理しても原調でやったほうがいいのかなあ、などと悩んでしまうのですが、ひとつの出来事を思い出しました。 以前受講した指導者講習会で楽器店による楽譜の売り場があったのですが、 そこでは休み時間なんかに講師の先生方も楽譜を探したりなんかしたのですね。 ある先生が「『スペイン奇想曲』出てるじゃないか。」なんて、私の隣で言うではありませんか。 私もつい「でもその曲終楽章でシャープがやたら増えるんですよね。」なんて言ってしまったのです。そしたら「そんなの移調しちゃえばいいじゃない。」なんて答えてくれたのです。あまりにもあっさり仰ったので、「この先生は原調にはあまりこだわらないのだな」と思った次第です。この先生、日本の吹奏楽作曲家ではかなり有名な方ですよ。 というわけで、吹奏楽に編曲する場合移調することはムキになって悩むほどのことではないと開き直ってしまいました。 では、ベートーヴェンの交響曲の調はどうかというと次の表のようになります。
こう見てみるとフラット系の方が多く原調のまま出来そうな曲が多いですね。 2番、7番が原調では厳しそうですから、移調せざるを得ないでしょう。では、何調に移調するのがいいでしょうか。 吹奏楽編曲をされている方の 「調の選択でその編曲が成功するか失敗するかが決まると言っても過言ではありません。」と言う、ご意見があります。よく考えて慎重に決めなければなりません。 2番、一音下げてハ長調というのがまず考えられます。現在は作曲当時と比べピッチが上がっていますので、あまり的外れにはならないと思います(だったら他の曲はどうなのよと突っ込まれそうですが)。ただ、1番からハ長調が続いてしまうのが気になります。 そこで、変ホ長調、、、今度は3番と同じになってしまいますね。どうもハ長調の方が無理がなさそうです。 7番、一音下げてもト長調ですので、吹奏楽にとってはあまり楽にはなりません。半音上げて変ロ長調ではどうでしょう。吹奏楽の基本の調になりました。音を上げた関係でホルンの高音がきつくなるかも知れません。それと、イ長調の明るさが変ロ長調にすることにより落ち着いてしまうのが難点かもしれません。その辺は演奏時に指揮者がよく理解して表現してもらうということで、、、。 これで安心してはいけません。ベートーヴェンに限らずですが、楽章によって調が変わったり、曲の途中の転調なんかもよくあるのです。第九の終盤なんかはニ長調ですから吹奏楽ではつらくなります。場合によっては、他の曲も移調を考えなければかも知れません。 逆に『ウェリントンの勝利』の場合、音階練習のごとくコロコロ転調します。こうなると移調など考えないほうがいいかもしれません。 まぁ、いろいろと悩んではいますが、実はそれほど深刻ではないのです。 だって、もし別の調に移さねばならなくなったとき、手書きの譜面では全部書き直しですが、パソコンで書かれた譜面は移調して書き直すことは、コマンドひとつでそれほど困難なことではありませんから。 【参考文献】 ようこそ 高橋徹の音楽室へ http://www.musicstore.jp/~tohru/ |